転職して後悔はしていません。でも、知っていたら心の準備ができたことがいくつかあります。
企業看護師2年目の私が、転職前の自分に伝えたいことを正直に書きます。
⒈会社員マインドへの切り替えが想像以上に大変だった
トップダウン文化のギャップ
「トップダウン」とは、上の人間が決めたことが下に降りてくる組織の意思決定の仕方のことです。医療現場ではあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、企業、特に古い体質の会社では色濃く残っていることがあります。
上から言われたことに従うしかない、意見を言っても通らない——そんな環境で疲弊したり、メンタル不調になる社員を目の当たりにして、最初はかなり戸惑いました。病院とは違う種類のしんどさが、企業の中にはあるんだと気づいた瞬間でもありました。そして、メンタルは思っている以上に簡単に壊れてしまうんだと、改めて実感しました。
だからこそ、ゆっくり話を聞くこと、そして休む必要があるときは専門職である看護師の立場からはっきりと「休んでください」と伝えることが、この仕事の大切な役割なんだと学びました。
「コストがかかる部署」と見られる現実
健康管理室は何も生み出さない、お金を使うだけの部署と思われることがあります。医療職としての提案が「コスト」の一言で跳ね返される場面は、転職前には想像していませんでした。
⒉産業医との関わり方は事前に学んでおけばよかった
産業医は「指示を出す医師」ではない
恥ずかしながら、転職前は産業医という立場をよく理解していませんでした。産業医は治療の指示を出す医師ではなく、従業員が就業できるかどうかを判断し、調整・連携するパートナーです。
来社は月1回程度の場合も
私の勤務先では産業医は月1回程度の来社です(常勤の企業もあります)。大きなケガや体調不良が起きても、その場で判断するのは自分。それだけの責任がある仕事だと知っておくべきでした。
⒊保健師資格がないと求人の選択肢が狭まる
「保健師優遇」の壁
私は保健師資格は持っていません。企業看護師の求人はもともと少ないのですが、さらに「保健師優遇」の条件がつくと応募できる枠が一気に狭まります。看護師資格だけで採用される職場ももちろんありますが、転職活動は想像以上に大変でした。
産業カウンセラーも選択肢に
保健師資格の取得が難しくても、産業カウンセラーの資格取得を検討する価値はあると思います。転職活動でのアピールにもなりますし、メンタルヘルス対応の実務にも活きてきます。
⒋仕事の成果が見えにくくてモヤモヤする
「看護した」達成感がない
病棟では患者さんの回復が目に見える形で分かりました。でも予防の仕事は成果が数年後にしか現れない。毎日パソコンに向かって書類作業をこなしていると、「自分は役に立っているのか」と感じる時期が確かにあります。
自分なりのやりがいを探すことが大切
コミュニケーションの少ない日が続くと孤独感も重なります。成果を数値で測れない分、自分自身で「何のためにこの仕事をしているか」を言語化しておくことが、長く続けるために必要だと感じています。
⒌社内での立場・発言のしにくさは覚悟が必要
医療職の意見が通らない現実
世界禁煙デーにイベントを企画したとき、トップから「タバコくらい自由にさせてあげて」と一言で却下されたことがあります。医療の常識が、企業の論理の前では通用しない場面は少なくありません。
報告ラインが病院とは違う
病院では何かあれば師長に相談すればよかった。でも企業では、まず自分の直属の上司に通すのが基本です。昔ながらの文化が根強い職場では、根回しや伝え方の工夫がとても重要です。
⒍一人職場の孤独感は思った以上にきつい
相談できる看護職の同僚がいない
判断に迷ったとき、すぐに聞ける同僚がいない。この心細さは、実際に働いてみるまでわかりませんでした。特に最初の数ヶ月は、自分の判断が正しいのかどうか不安になることが多かったです。
自分から動いて存在感を作る
孤独感への私なりの対処法は、社内を積極的に歩き回って社員に声をかけること。「保健室ができましたよ」と自分からアピールすることで、少しずつ相談してくれる人が増えました。
⒎看護スキルが落ちることへの不安は続く
採血・処置がほぼゼロになる現実
私自身は16年の病棟経験があるので未練はありませんが、多くの方が「病院に戻れるだろうか」という漠然とした不安を抱えているようです。これは転職前から覚悟しておいた方がいいことの一つです。
スキル維持のために続けていること
私は健診結果の数値を丁寧にチェックすること、医療系サイトの定期的なチェック、研修への参加、健康情報誌の毎月購読を続けています。手技は落ちても、知識は自分次第で維持できます。
⒏パソコンスキルとビジネスマナーは転職前に少し準備しておけばよかった
これは完全に盲点でした。応募条件には「Excel不要」と書いてあったのに、実際に入社したら普通に求められました。求人票と現実のギャップ、これも転職あるあるかもしれません。
病棟では電子カルテを使っていたので「パソコンは使える」と思っていたのですが、企業で求められるのは全然レベルが違いました。Excelで集計資料を作る、Wordで報告書を整える、メールで社内外に連絡する——どれも最初は四苦八苦しました。
ビジネスマナーも同じです。メールの書き方、電話対応の言葉遣い、会議での振る舞い。看護師として18年働いてきた自信が、ここでは全く通用しませんでした。「新入社員みたいだな」と感じたのは、転職して最初のころの正直な気持ちです。
AIでなんとかなる!
でも、失敗しながらだんだんできるようになってきました。最近はAIを使ってメールの文章を作ることも覚えて、以前ほど苦戦しなくなりました。今はAIという便利なツールがある時代。転職前にパソコンスキルが完璧でなくても、使いながら覚えていけばなんとかなります。
おわりに|転職を考えているあなたへ
病院で働きながら子育てをされている方、本当に尊敬します。誰かが病棟で働いてくれないと医療は成り立たない。それは間違いないことです。
でも、そのことで自分が疲弊したり、家族まで消耗してしまっては本末転倒だと思うんです。
私自身、4人の子どもにお金の不自由をさせたくなくて、夜勤手当が出る病棟勤務を続けていました。でも毎日、午後になると「今日は定時で帰れるだろうか」とヒヤヒヤしながら仕事をこなして、夕方に入院や急変があれば確実に残業。HCUにいた頃は、夜勤前の家で「今夜はあの術後の患者さんの担当だな…」と頭の中がずっと仕事のことでいっぱいでした。
病棟勤務が合っている人もいると思います。そういう方たちが懸命に働いてくれているから、患者さんは安心して療養できる。それは本当のことです。
でも、もしこの記事を読んでいるあなたが
「病院勤務、そろそろ限界かも」
「子育てとの両立が、もう難しい」
「でもお金の不安もあるし、転職なんて無理かな」
と心のどこかで思っているなら——次の一歩を踏み出してみてほしいです。
動き出すまでが一番怖い。でも動いたら、意外となんとかなります。



